時の谷における強い方向性
時の谷・庭園計画
時の谷・猪苗代湖を望む
時の谷・時間の倉庫模型
時の谷・外観
時の谷・内観
谷そのものを建築空間化、すなわちインテリア化していくことを目的とした庭園の設計である。
このプロジェクトの根幹を担ったのは、オリエンテーションという概念とそこから導かれた「不動点」の思考であった。
全くの大自然の中に人間が一人立つ時、その生活のモデュールはオリエンテーション、すなわち方位に従う。時計を持たない人類は、昼夜の時間の変動は太陽と星の運行によって知覚される。その事自体を立体化し、そして谷状のこの土地の地形と組み合わせて空間化(=建築化)することを狙った。
多くの思索とエスキスを行ったが、得た結論の端緒は、星座を天球上の図形として知覚する人間の脳と、星座を構成する実際の星々の互いの地球からの距離の二次元と三次元を往復する運動そのものを立体的な座標の中に凍結できないか、というアイデアである。
そのために、星々の運行を測定する基準として、現場のある一点と北極星を結ぶ不動の軸のみを設定すれば、あとは究極的には物質を必要とせずに空間は立ち上がるはずである。そして、その時人間のスケールと天体のスケールがダイレクトに交感され、人は地球の自転を体験として感じる事ができる。その体験そのものの中に、空間は体現される。
時の谷は、建築家のプロジェクトとしても一級でありたいと願って、このような誇大妄想までを含めて思慮したのであった。
北極星と結ぶその一点は、鬼沼の谷の地球上の座標、すなわち緯度経度から北極星の角度を割り出し、それを地球の自転軸である真北からの角度に転写して求められた。そして、その一点を不動のポイント、すなわち「不動点」と命名したのである。
その上で、庭園の外形は鬼沼の谷の形状の中に設定された仮想の三角錐が、不動点を中心に回転する軌跡から菱形の輪郭が導き出され、定められた。このとき、重要なことはこの敷地が谷であることであり、それはすなわちV字断面の斜面地であることである。
それは、平面投射的に、つまり建築の設計図で言うところの平面図的に並べられた幾何学が土地の起伏によって立体に起こされることを意味している。
それによって、このとき用いた仮想の幾何学は、三角錐は庭園の中心を上部から下部に伏流する水の調整池の機能を持った池として、谷からさらに地中を穿ったネガティブな立体として立ち現れ、また不動点を含む範囲に置かれた立方体はその大半を地中に埋設された建築として内部に空間を孕むものとされた。
これらの設計行為によって時の谷は不動点、庭園、中心の建築によって内部化された建築空間として、地球と北極星を結ぶ地表面上にその存在が顕在化されるのである。
渡邊大志