2015/09/15 引き出しプロジェクト#4「作品」の記名性の価値をめぐって 「編集趣向」③
「#4 編集趣向」とひとまず名付けたのは、この増改築によって住宅という単体機能が小規模ながら複合機能を持つ建築となることの意味を考えたいと思ったからである。
そのベースには、戦後日本の住宅生産事情の歴史もさることながら、それを全て受け入れた上での日本の都市風景、平たく言えば、街並みというものをどう積極的に捉えるかという視点がある。
この小建築のデザインには形態の遊びはきつく施主から禁じられている。私もそれには深く同意した。それは近代日本において「普通の」と一般に言われるまでに育った日本の工務店・ハウスメーカーによる住宅デザインが作り出した街並みとの、それでもある微差が都市の中に散りばめられていることの総体的な価値の方が重要と考えたからである。
これは、裏返していえば、住宅スケールの特異な意匠は、どれほど優れたとしても日本の雑多な街並みの中では、雑多の1種として回収されてしまうことを指すに他ならない。それらはまさに「趣向」なのである。
増改築の巨匠はカルロ・スカルパであり、フランク・O・ゲーリーや、マイケル・グレイブスの処女作も住宅の増改築であった。それらは共通に、作家の作品としての価値であった。それを求める自己を否定することはできない。
しかしながら、#4で得たいと願うのは、周囲の風景が始めから持たざるを得なかった「微差」の存在そのものである。そして、それによってむしろ逆転的に「作品」らしきものの価値が生まれる方法を探っている。
すると、この小建築の呼称、すなわち記名性は固有名詞であってはならないことが、その固有性を同時に示すというパラドックスを抱えることを整理して考えていく必要があるやもしれない。
2015年9月15日
渡邊 大志